第五日 駆け抜ける青春(フルティン)
 

 

社長「私は・・・いつから服を着るようになってしまったのだろう・・・。いつ全裸の魂をなくしてしまったんだろう・・・。」

社長「何もかもが輝いていたあの頃・・・。」
 

 

 

目を閉じて思い出にふける社長。

一郎達はとりあえず静聴モードになります。

 

 

 

社長「そう・・・・あれは・・・私がまだ血気盛んな若者だった頃・・・・。」

 

 

社長「大人の階段を上り始めたばかりの私は・・・世の中を憎んでいた。」

社長「腐敗しきった現代社会、そこに生きる欺瞞と虚無で彩られた大人達全てが憎かった・・・。」

 

社長「真実を語ることの出来ない卑しい大人、そんな者の一員にそまっていく自分が許せなかった・・・。」

 

社長「この世界を救う革命を起こしたい・・・そんなことを夢想していた・・・・。」

 

社長「ああ、もちろん・・・私にはそんな力は無かった。」

 

 

自嘲気味に笑う社長・・・。大人のほろ苦さを感じさせます。

 

 

社長「今思えば・・・・ただの夢見がちな青年だったのだと分かるが・・・当時は理想と現実のギャップに潰されそうになっていた。」

 

社長「眠れない夜を数え・・・・無力な自分を呪う日々が続いていたんだ・・・。」

 

社長「このままではおかしくなってしまう。本気でそう考えたよ・・・。」

社長「傷つき、飢えた魂の解放場所を探していたんだ・・・・。」

 

 

社長「そして、見つけたんだ・・・・魂の解放場所を・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

社長「それは・・・人の行き交う商店街だった・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社長「わはははははははははははは!!!!!」

 

 

 

 

そそり立ったシンボルが、フルンゴフルンゴと豪快に揺れます。

社長「わはははははははは!!エウレカ!!!エ、エウレカ!!!」

社長はとりあえず全裸になって街を駆けるときの作法に従い叫びます。

そうか・・・こう見るとアルキメデスってとっても危険な人だったのですね・・・。

 

 

しかし、なんと気持ちが良いのでしょう。

まるで駆けていくごとに心に溜まったもやもやが晴れていくようです!ああ、素晴らしい!

 

社長、止まりません。止まれません。

生命のエネルギーが体中に充ち満ちているようです。

彼は今、神の気分を味わっています。

 

社長「そうだ!私の求めていた革命とはこれだったんだ!」

全裸で疾走することが革命だなんて・・・・。

世の中にいる変質者の方々は革命闘士だったのですね・・・。

 

 

と、そこに、初めての通行人が現れました。

チャンスです!己をアピールする絶好の機会です!

変質者デビュー第一戦目です!ファイト!

社長「ヘイ!おじょうちゃん!ヘイヘイ!」

 

 

おじょうちゃん「・・・・・・。」

新聞配達の少女は完全に無視しています。

社長「・・・・・・。」

 

 

社長はちょっと恥ずかしくなってそのまま駆け抜けます。

 

 

 

社長「・・・・・・・・。」

 

 

とりあえず今のはノーカウントにして次のターゲットをロックオン!

この町に越してきたばかりのベティさん!

旦那のボブさんは夜勤のお仕事をしています(ってここは関係ない話ですね。)

 

ベティさんの前に立つと社長は声を限りに叫びました!

 

社長「奥さーん!新鮮なキュウリはいかがですかーーーーーー!」

 

変質者まっしぐら。

 

社長「奥さん!さぁ!見つめてご覧なさい!!さぁ!!!」

社長「ほら!こんなに!当社比120%増強状態!!!さぁ!」

社長「その歯ごたえを!そのみずみずしさを!是非あなたもご賞味ください!!!」

 

ベティさんに様々な角度から見せつける社長。

 

 

社長「旦那さんと!旦那さんと比較して!さぁ!どっちがホントのペプシでしょう!?」

 

もう言ってることが分かりません。

 

 

ベティ「ヒッ!ヒィィィィィーーーーー!!!」

ベティさんも逃げ出します。

 

 

社長「そう!その反応を待っていた!素晴らしい!ああ!ああ!」

 

 

社長「わははははははははは!!!そうだ!私は風!ああ!私は風!!終わりのない旅を続けるのさ!!」

 

走り続ける社長の前に手頃な獲物がうろついています!

社長、急ブレーキをかけて通行人の兄ちゃんの前に立ちます!

 

 

社長「ヘイ!そこのいけ好かないイモ野郎!!俺の股間のマグナムとおまえの水鉄砲。どっちの性能がいいか勝負しようぜ!」

いきなり何を言うのでしょう。

 


いけ好かないイモ野郎「(まずいぞ・・・目を合わせたらいけない・・・。)」

 

社長「ふふふ・・・・どうよ?このそそり勃ち具合・・・。」

社長、目の前でポージングをします。

いけ好かないイモ野郎「(うわー・・・。なんか見せつけてるよ・・・。怖いよ。このまま横を素通りしよう・・・。)」

通行人のお兄さんはそっと脇に避けようとしました。

社長「ムッ!」

社長は敏感に動く気配を察して立ちはだかります。

 

社長「おっと待ちやがれ!ヘイヘイ!勝負を挑まれて逃げるのか!この腰抜け野郎!」

腰抜け野郎「・・・・・。(ひぃ・・・誰か・・・助けて・・・)」

お兄さんは生まれて初めての「突発イベント」にただ助けを求めるばかりです。

社長「ただで見ておいてそのまま立ち去るとは気にいらねぇ野郎だ!」

気にいらねぇ野郎「・・・・・。(勝手に見せておいて何を・・・。)」

 

 

社長「この野郎!見物料113円よこせ!」

 

 

この野郎「・・・・・・。(なんだよ・・・その金額。)」

社長「払わないなら勝負だ!脱げ!おまえから脱ぎやがれ!クソ野郎」

 

 

クソ野郎「・・・・・。(あんたすでに脱いでるじゃないか・・・。)」

社長「クソ忌々しい野郎だぜ!おまえの腰に下げてる物はおもちゃか?男なら脱ぎやがれ!」

 

 

クソ忌々しい野郎「・・・・・。(なんだか*ロウ・オブ・ザ・ウエスト・・・。)」

反応してくれない兄ちゃんに、社長は嫌気がさしました。

 

 

社長「チッ!とんだチキン野郎だ。勝負する価値すらねぇぜ!おまえみたいな奴は家に帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだな!」

 

 

道につばを吐いてアウトローを気取る社長。兄ちゃんを見捨ててさらに駆け出します。

チキン野郎「・・・・。(助かった・・・。)」

*名作、ロウ・オブ・ザ・ウエストについてもっと知りたい方はこちら

 

 

と・・・そんな騒ぎをおこしてるうちにおまわりさんがやって来ました。

 

 

「変態はあそこね!」

 

「どこだ!?露出狂はどこだ!?」

 

「いたわよ!」

 

 

 

続々と駆けつけるお巡りさん。

 

 

そして・・・すっかり取り囲まれる社長。

 

社長「なんだお前らは!俺の革命を邪魔するな!」

お巡りさん「もうちょっと迷惑のかからない革命にしてもらえないかしら・・・。」

社長「なんだとこの国家権力の犬めっ!」

社長、もりあがってます。

社長「我々が目指す宇宙共同統一意識との融合!そして全人類の永遠の平和と繁栄!それを阻止しようとするお前達!お前達の正体はお見通しだっ!外宇宙からきた悪のアストラル体・・・ゾリゲ・タゲマだなっ!世間の目はごまかせても私は騙されない!ちくしょうこの野郎お前達は腹を切って死ぬべきである!!!」

ヒートアップしてる社長は泣きながら訳の分からない事を口走ります。

お巡りさん「はいはい。分かったからこっちに来い!」

社長「放せ!俺は!俺はっ・・・・!」

お巡りさん「お前は?」

社長「俺は!・・・・。」

お巡りさん「・・・・・。」

 

よく考えてみると、今現在の自分を的確に表現する肩書きがありません。

(『全裸の変質者』って肩書きが正解だけど、それは認めちゃいけませんし・・・。)

勢いだけで進んでしまったので、革命についても大した考えはありません。

でも、それはかっこわるい・・・革命闘士にふさわしい肩書き・・・悩んだあげく、社長は言いました。

 

社長「み、ミステリーハンター・・・。」

お巡りさん「はい。ミステリーハンターね。OK、じゃボッシュート。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の伝説第一ラウンドはこうして幕を閉じたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

社長「革命・・・。そう。私は革命に挫折した翼の折れたエンジェルだったのだよ・・・・。」

 

社長の頬を伝う涙・・・。

 

ミシェール「社長・・・。一言いわせてください・・・。」

 

社長「ん・・・・なんだね・・・・。」

 

ミシェール「それは間違いなくただの変質者です!」

 

 



社長「そ、そうか・・・。自分でもちょっぴり心配してたんだが・・・やはりそうだったか・・・。」

 

革命の思い出を「変質者」と切って捨てられた社長は肩を落とします。

 

 

ミシェール「はっきり言ったからって落ち込まないでください!」

 

社長「ふ・・・・確かに私はただの変質者だったのかもしれないな・・・。」

 

自覚した社長は少し立ち直ります。

 

社長「ま、よく考えたら・・・。むしゃくしゃしてたんだろうな・・・。あのときバールのような物があったらまた別の道を歩んでいたかもしれない・・・・。」

ミシェール「そんな未成年の犯罪者のような言い訳を!」

社長「ベティさんには申し訳ないことをした。今は反省している。」

ミシェール「あーもう!やっぱり未成年犯罪者ですか!」

 

社長とミシェールさんが言い合いをするさまを、兄弟は観客として見守ります。

 

次郎「社長・・・・我々とは別の理由で全裸の魂が震えていたのだな・・・。」

一郎「全裸とは・・・・なんて罪深い物なのだろうか・・・・。」

 

深く考える兄弟・・・。しかし三郎だけは別のことを考えていました。

 

 

三郎「兄者・・・コーヒーはお預けのようだな・・・。」

一郎「すっかり忘れていたな。」

 

お話の続きは次のページへ。

 

 

 

 

 

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