第三日 場末の全裸歌うたい
さて、見事お祭りデビューを決めた次郎。
結果を待つ兄弟に報告へ行きます。
と、途中で三郎に会いました。
三郎「おお!次郎兄者!結果は!?」
次郎「うむ!見事デビューを果たせる事になったぞ!」
三郎「おおおおお!素晴らしい!素晴らしいぞ!兄者!」
次郎「さぁ!一郎兄者たちにも早く報告しよう!」
二人は一郎と四郎の元へ向かいます。
そしてこちら一郎。
ピンクのフラミンゴを眺めつつぼんやりとしています。
一郎「かわいーいこーうーしー…♪」
さりげなくドナドナを口ずさんじゃうあたり、ちょっと落ち込んでるんでしょうか。
そこへ次郎と三郎がやってきました。
次郎「一郎兄者!」
一郎「おお!次郎弟者。どうだったのだ?」
三郎「やったぞ。本番で歌える!」
一郎「そうか!それはめでたい!早速四郎弟者も呼ぼう。」
次郎「うむ。控え室も準備してもらってる。ここで本番前にちょっとリハーサルをしよう。」
三郎「うむ。心得た。」
こうして兄弟は控え室に向かいます。
次郎「よし。それじゃ本番の前に少し練習をしよう。」
控え室前の広場にマイクとギターを用意します。
四郎「ううむ。我々の歌声で大丈夫だろうか…」
次郎程の美声は持っていない兄弟は不安になります。
次郎「大丈夫。」
次郎は自信満々です。
三郎「しかし次郎兄者がギター担当では歌のパートが心配だな…」
次郎「いや。本番では私も歌を歌う。リハーサルの時だけギターだ。」
一郎「そうか。なら安心だ。」
三郎「そうすると…本番では伴奏なしか?」
次郎「うむ…アカペラという奴だな。」
四郎「ほう!まるでゴスペラーズみたいだな!格好いい!」
一郎「うむ!」
もう全員心の中ではゴスペラーズです。全裸ですけど。
全員がスタンバイしていよいよリハーサル開始です。
一郎「アー」
三郎「アー」
四郎「アー」
次郎「もっと高らかに!」
次郎の叱咤が飛びます!
それに応えるように身振りと声が高くなる兄弟
一郎「アーーーー!」
三郎「アーーーーーーーー!」
四郎「アーーーーーーーーーーーー!」
次郎「うむ!パーフェクト!」
とりあえずゴスペラーズっぽくないけど、次郎がパーフェクトと言うならそれで良いのでしょう。
こうしてレパートリーを練習する兄弟。
本番の時は刻一刻と迫ります。
開演5分前。
次郎は司会者に挨拶をします。
次郎「今日のバンドマンです。よろしく。」
司会者「ほう。あなたが…(全裸)」
次郎「ほがらか次郎です。」
司会者「え、ああ。」
司会者さん思考が飛んでます。
司会者「えーっと…バンド名は?」
次郎「あ、ゴスペラーヌ”でお願いします。」
司会者「ゴスペラーズ?」
次郎「いいえ。ゴスペラーヌ”です。」
司会者「…発音しにくいですね。」
次郎「そうでもないと思いまするが?」
司会者「ま、まぁいいでしょう。ゴスペラーぬ”ですね。ではコールしたらお好きに演奏して下さい。時間は1時間程度です。」
次郎「うむ。心得申した。」
司会者の紳士は全裸が気になるようです。
…ま、それは置いといて。
開演ぎりぎり前。四郎はジュースでのどを潤します。
四郎「ふぅ…緊張するな…」
そして…
いよいよ本番。
司会者さんが観客にコールします。
司会者「レディースアンドジェントルメン。今日は地元が誇る素敵なバンドが来てくれました。」
一郎「いよいよだぞ…」
四郎「う、うむ。」
舞台袖の控え室で待つ兄弟
司会者「素敵な思い出になる事間違いなし、小粋なコーラスを聴かせてくれます。では紹介しましょう!………………」
次郎「ん?」
四郎「ん?」
司会者「(バンド名なんだったっけ…ど忘れしちゃった…えーっと…)」
出るタイミングを失って落ち着かない兄弟
次郎「ん?どうした?ためを作ってるのか?」
司会者「(えーっと…思いだせん!…なんか発音しにくい全裸…」
司会者「(全裸…えーっと…なんだったっけ…あー…あーもう適当につけちゃえ!どうせ誰も聞いてない!)」
司会者さんは正常な思考の持ち主のようです。
全裸はいけないでしょう。それに「ヌ”」って発音も。
吹っ切った司会者さんは適当な名前でコールします。
司会者「お待たせしました!次郎アンド全裸キティーズの皆さんです!」
兄弟「え!?」
次郎「ゴスペラーヌ”じゃないのか?」
あわてる兄弟。でも呼ばれたからには出て行きます。
次郎「う、うむ!では行くぞ!」
兄弟「お、おう!」
一郎「アーーーー!」
三郎「アーーーーーーーー!」
四郎「アーーーーーーーーーーーー!」
次郎「ワン・ツー・スリ−・フォー」
閑散としたステージ。客はみんなそっぽを向いてます。
でもそんな寒いステージに負けない元気の良さで全裸兄弟は歌います
次郎「ズビズバー」
兄弟「パパパヤー」
次郎「ヤメテケレーヤメテケレーヤメテケーレ」
兄弟「ゲバゲバ」
全裸キティーズとなったからにはこの歌から始めないといけないでしょう。
(わかりにくくてすみません。)
とりあえず歌が始まって一安心の司会者さん。
そそくさと料理のあるテーブルへ急ぎます。
兄弟「ららららーんらーんらーららら」
次郎「ゲバゲバー」
兄弟「ランランラーラララー」
次郎「ゲバゲバー」
兄弟「どうして〜どうして〜ゲバゲバパパ〜や〜」
次郎「オーーーゥ神様〜かーみさま〜助けてパパーヤー♪」
熱唱は続きます。でも、
誰も聞いてねぇ。
司会者さんまで料理のあるテーブルで楽しく歓談しちゃってます。
四郎「あ、兄者…」
次郎「ん?どうした?」
四郎「ちょっと…寒くないか…」
次郎「ああ、全裸に風がしみるな…」
一郎「あと58分…」
次郎「ま、頑張ろう…」
こうして、かれらのデビューは終わりました。
そして後かたづけの午後。
次郎はギャラをもらいに息子の元へ向かいます。
息子「おーう。ご苦労さん。」
次郎「…ご苦労様…です。」
息子「いやー。よかったよ。他の人は聴いてなかったけどねぇ。ガハハ!」
息子のやさしさが凍えた次郎を癒します。
息子「まーギャラ弾むから海にでも行って来なよ。」
次郎「うむ、海か…」
息子「ま。また機会があったら頼むね!んじゃ!」
息子は分厚い封筒を次郎に渡すと片づけを続けるために背を向けました。
次郎「海…か。」
さんさんと降り注ぐ太陽。青い空。どこまでも続く白い浜辺。
次郎の凍えた心に少し灯がともりました。
次郎「うむ!とりあえずギャラも出た事だし、次は海にでも行こう!」
次郎はもらった封筒の重みに気をよくします。
兄弟の元へ向かおうと歩き出したその時、
開いたままの封筒の口から手紙がするりと抜け落ちました。
次郎は何気なく手紙を読みました。
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袋の中には種がごっそり。
三郎「帰宅…か。」
一郎「うむ。」
四郎「お金。どうしようか。」
一郎「うむ。」
次郎「…とりあえず種はあるし…作物でも作ろう。」
一郎「うむ。」
次郎「兄者?」
一郎「うむ?」
次郎「ドナドナ…いっとく?」
一郎「いや。今日は…いい。」
三郎「寝るか?」
一郎「うむ。寝よう。」
兄弟の明日はどうなるのでしょうか…
それでは4日目をお楽しみに。